1959年創業以来、1度も赤字を出したことがないという京セラの経営の裏には、創業者である稲盛和夫氏が発案、実行したアメーバ経営と呼ばれる手法がありました。経営不振に陥っていたJALをはじめ、いくつかの企業をV字回復させてきたこの「アメーバ経営」とは一体どのようなものなのでしょうか。その本質や成功事例、失敗事例についても細かく紹介します。
アメーバ経営とはなにか
アメーバ経営は、会社組織を「アメーバ」と呼ばれる細かい集団に細分化し、各アメーバのリーダーが経営者のように細分化されたアメーバの経営を行います。
小組織の利益最大化を測ること
アメーバを構成するリーダーとメンバーは、自身の携わる小組織(アメーバ)の利益最大化を図ることにより、創意工夫を行いながら、日々の仕事に取り組むようになるというシステムを指します。
稲盛和夫氏が実体験に基づき、発案された経営管理システム
この経営手法は京セラや第二電電(KDDIの前身となる企業)を創業した稲盛和夫氏が、会社を運営する実体験に基づき発案した手法です。
稲盛氏は「会社経営を一部の経営上部層のみで行うのではなく、すべての社員が経営に関わるものだ」との考えに基づき、「会社の組織を可能な限り細分化し、細分化されたそれぞれの組織の成果物をわかりやすく示すことで、全社員の経営参加を促す経営管理システムである。」と考えています。
アメーバ経営の本質とは
会計を正しく理解すること
アメーバ経営の本質は「会計を正しく理解する」ということにあります。稲盛氏は会計を企業が目標に到達するための羅針盤であると考えており、すべての社員が羅針盤に基づき同じ方向を向いてオールを漕ぐことで目標の達成と企業成長が実現できると考えています。
社員全員が経営に参加すること
この事から、すべての社員が羅針盤を意識するために、社員全員が経営に参加することのできるアメーバ経営を推進しています。そして、会計がマイナスに転じた時には進むべき方向を間違えているという認識を持つことが大切であるという認識のもとに経営を行っています。
経営管理手法がアメーバ経営ですが、同じような組織の概念として最近話題なのが「ティール組織」です。不確実性の高い時代だからこそ、コントロールせずに個々人の意識に任せるというものです。こちらも合わせてどうぞ。
目的とは
社員個々が持っている能力を最大限発揮すること
アメーバ経営では、社員個々が持っている能力を最大限発揮できる社内環境の実現を目的としています。企業が継続して発展するためには、すべての社員が1つの目的のために協力しあえる風土を形成することが重要です。
個々の社員が経営に携わっているという認識を高めること
これは、すべての社員が経営に参加し、個々の社員が経営に携わっているという認識を高めることが必要になります。そうすることで、自身の所属する小組織、さらには、会社全体のために努力し続けることができるのです。
批判される内容とは
アメーバ経営下においては各個人が経営者としての行動を取るため、しばしば勤務時間や休日等を考えずに小組織の利益最大化を図ろうとします。
外部からそのような動きを見たときにある種会社に隷属していると見受けられてしまい、アメーバ経営は社長のワンマン経営であるとの批判を受けることがあります。
京セラの事例
京セラではまず、各部門を更に細分化し、社内にいくつもの中小企業が点在するような組織体制に変更しました。また、細分化した部門にリーダーをおき、経営者としての視点を持つ社員を増やし、部門間での社内売買制度を制定したのです。
部門間の取引でも仮想の売上計上
製造部門が多かった京セラでは、各部門で製造した部品を、中小企業同士が売買を行うように、部門間での取引でも仮想の売上が計上できるようにルールを定めました。
これにより、自分たちの成果物がどのくらいの売上になったのかをすばやく、直感的に把握することができるようになり、より自身が所属する小組織への貢献を明確にしました。
生産スピードの向上・エラー対応を迅速に
これを小組織ごとに行った結果、企業全体として見たときに大きな成果物をすばやく生産でき、また、エラーが出たときにも的確に対応できる会社となったのです。
JALの事例
JALフィロソフィーの作成
事実上倒産を迎えたJALをV字回復させたのも、アメーバ経営の導入によるものでした。同社の代表として就任した稲盛氏は、JAL全体としての共通意識が欠けていることに着目し、「JALフィロソフィー」という共通認識を作成し、社員への徹底を図りました。
帰属意識・当事者意識を高めた
その上で、事業部を細分化し、倒産時にかけていた社員ひとり一人の会社への帰属意識と当事者意識を強めることにより、赤字続きだった同社を黒字にV字回復させたのです。
ワタベウェディングの事例
総合結婚サービスを提供する大手のワタベウエディングは1990年代からアメーバ経営の手法を導入してきたのですが、事業拡大に伴い、アメーバ経営手法の見直しが必要となりました。
1店舗毎を1アメーバとして捉え運用
ワタベウエディングでは、1店舗毎を1アメーバとして捉え運用していたのですが、長年に渡るアメーバ経営の継続により、アメーバ経営を行うこと自体が目的となっていました。
その背景には、店舗毎の立地や従業員数、キャパシティなどの格差にもかかわらず、すべて同じ土俵に上げて管理を行っていた体制にあるということがわかりました。
1アメーバを6~7人と定義
それを受け、ワタベウエディングでは、できるだけ土俵が同一のものとなるよう立地が似た店舗毎を競争相手と見立てたり、1アメーバを6~7人と定め、従業員が多い店舗では、その店舗内で更に小組織を構成したりするという手法に転換したのです。
結果、ワタベウェディングは低迷していた売上を回復することとなりました。
アメーバ経営のメリット・デメリット
数々の企業を倒産の縁から立て直してきたアメーバ経営。しかし、すべての経営手法において言えることですが、アメーバ経営もメリットとデメリットが存在します。
本章では、アメーバ経営を運用するにあたってのメリットとデメリットをそれぞれご紹介します。
メリット
アメーバ経営のメリットとしては、経営者としての視点を持った社員が増えるということ、スピーディーな情報伝達が可能になること、問題の肥大化が回避できることの3つがメリットとして挙げられます。
- 経営者視点の社員が増えること
- スピーディーな情報伝達が可能になること
- 問題の肥大化が回避できること
帰属意識を高め、問題解決スピードをあげること
大企業になると個々の部門管理はどうしても煩雑になり、社員一人ひとりの帰属意識が低下すると共に、問題に気づいた時にはかなり複雑で肥大化した状態であるということが問題としてよく取り上げられます。
しかし、アメーバ経営を行うことにより、社員ひとり一人が経営者としての視点を持つことで帰属意識が高まり、また、アメーバ毎に損益の把握が可能なため、問題が早期に解決することが可能です。
デメリット
運用の難しさ
アメーバ経営のデメリットとしては、運用の難しさが挙げられます。加えて、アメーバ経営の手法が定着するまでにはかなりの時間を要します。
それが大企業であればあるほど、部門の細分化は多岐にわたり、今まで発生しなかった事務処理が増えるため、社員の気持ちが離れていく危険性があるのです。
アメーバ経営を成功させる大前提であるすべての社員が同じ方向を向く、ということが破綻してしまうと、アメーバ経営を成功させるのは難しくなります。そのため、いかに社員ひとり一人にアメーバ経営の認識を浸透させるか、ということが課題となってきます。
アメーバ経営でおすすめの本
アメーバ経営の事例やメリット、デメリットについて紹介してきましたが、実際にアメーバ経営について深く知りたいと思っている人も多いのではないでしょうか。
それでは、アメーバ経営を理解する上で非常にわかりやすい参考書籍をいくつか紹介します。
アマゾンでおすすめ書籍
比較的取り寄せる事が容易なアマゾンで購入可能な「アメーバ経営」「稲盛和夫の実践アメーバ経営 全社員が自ら採算をつくる」「マンガでわかる 稲盛和夫のアメーバ経営」の3冊について概要とともに紹介していきます。
アメーバ経営
稲盛和夫の実践アメーバ経営 全社員が自ら採算をつくる
2冊目は、同じく日本経済新聞出版社から発売されている「稲盛和夫の実践アメーバ経営 全社員が自ら採算をつくる」稲盛和夫著です。前述の「アメーバ経営」が基本編だとすると、こちらは実践編とも呼ぶべき内容となっています。
本書では、アメーバ経営を実際に運用する際に何をすべきかを事細かに記載されているので、アメーバ経営とは何かを習得した上で読みたい1冊と言えるでしょう。
マンガでわかる 稲盛和夫のアメーバ経営
3冊目はマイナビ出版が発売している「マンガでわかる 稲盛和夫のアメーバ経営」です。こちらは、売上が低迷しているディスカウントチェーン店を舞台にわかりやすくマンガでアメーバ経営のいろはを紹介しています。
特に、活字が苦手な人にはわかりやすくとっつきやすい内容です。
感想・口コミ
どれも稲盛氏が書籍化に携わっているため、アメーバ経営の本質をきちんと学ぶことができます。また、各人の理解度に応じた書籍展開となっているので、活字を読むのが苦手な方でもマンガであれば読みやすいと評判になっています。
アメーバ経営の失敗事例
前述したとおり、アメーバ経営は成功までが難しく、社員へのアメーバ経営の本質(フィロソフィー)理解を怠ると、失敗に終わってしまいます。本章では、アメーバ経営に挑戦したものの失敗に終わってしまった企業を原因と共に紹介します。
ソニーの失敗事例
アメーバ経営における失敗事例としてよく取り上げられるのがSONYです。大企業とアメーバ経営のマッチングは非常に高いように思えますが、社員全体へのアメーバ経営の浸透がなされていないと、アメーバ経営は失敗に終わってしまいます。
SONYの場合原因はどこにあったのでしょうか。
失敗の原因
ウォークマンを発端とするポータブルプレイヤーのブームを巻き起こしたのにもかかわらず、覇権をipodに取られてしまったのは、アメーバ経営によるものが大きいとされています。
社員間のベクトルが合わなかった
事業部の細分化を行ったのですが、社員間のベクトルが合わず、結果、企業利益の追求に走ってしまったため、顧客が後発のipodに流れてしまったのです。
アメーバ経営における根幹ともなるフィロソフィーの浸透を怠った為、SONYのアメーバ経営は失敗に終わってしまったと言えます。
アメーバ経営の間接部門の考え方
アメーバ経営における直接利益を生み出さない間接部門はどのような考えの下、経営に参加すればよいのでしょうか。
協力報酬という形で成果物を明確化すること
それは、協力報酬という形で成果物を明確化することにあります。
例えば、病院の場合直接利益を生み出すのは医師による医療行為のみですが、そこには看護師による協力があってこそ成り立つものです。
そのため、医師は医療行為による収入の一部を看護師などの間接部門に対し、協力費という形で対価を支払います。
そうすることにより、間接部門も経営に参加しているという認識ができ、病院で言うところの医師への協力の質をあげようとするため、病院全体の収益が上がるということに繋がります。
人件費はどうなるのか
アメーバ経営において、人件費は経費に含みません。これは、少数人が働くアメーバ経営に置いて、人件費の経費化はそのまま人件費の開示につながってしまうからです。
そのため、アメーバ経営においては、収益を労働時間で割った「時間あたり付加価値」という指標を持って部門の収益進捗を把握します。
採算表の作り方
アメーバ経営における採算表は誰がいつ見てもわかりやすいものでなくてはなりません。そのため、アメーバ経営においては会計の知識を持たない社員でも理解できるよう、「時間あたり採算表」を採用しています。
これは、カンタンな家計簿のようなもので会計を「総売上」「総諸費用」「差し引き売上」「当月時間あたり売上」の4項目に分けます。
目的は、生産性をあげることにフォーカスすること
こうすることで、現状いくら費用をかけていくらの売上が上がっており、指標としては1時間あたりいくらの利益を上げているのかをひと目で分かるようしたのです。これを開示することにより、より経費を抑えて、時間あたりの生産性を上げるよう工夫することができます。