メルカリやGunosyの上場で「ストック・オプション」が注目されています。特にメルカリでは従業員のなかから30名以上の億万長者が誕生したことで大きな話題となりました。しかし、ストック・オプション制度の具体的な内容についてはあまりよく知られていません。この記事では、ストック・オプション制度の特徴や、企業にもたらすメリットなどについて詳しく解説していきます。
ストック・オプションとは
自社株を定められた価格で購入することのできる権利
「ストック・オプション(Stock Option)」とは、会社の従業員などが自社株を定められた価格で購入することのできる権利を指します。会社の株価が上昇すれば、その差額分を報酬として受け取れるということになります。
なお、米国での「Stock Option」は別の株式オプションを指すこともあるので混同しないように注意が必要です。グローバル企業の場合は、「Employee Stock Option(従業員自社株購入権)」と表記することが無難です。
ストック・オプション制度
ストックオプション制度は、給与や賞与を上げなくても社員にインセンティブを付与できることが特徴の制度です。「通常型(業績連動型」や「株式報酬型」、「有償型」などの種類があります。
将来の報酬を約束する制度ともいえますが、既に上場している企業か、将来の株式公開を目指す企業であることが前提となります。また、ストックオプションにはメリットだけでなくデメリットもあります。
それぞれをきちんと把握したうえで制度を導入することが大切です。
メリット
メルカリやGunosyに倣ってストック・オプション制度を検討している企業が増えています。
学生の就職が売り手市場、中途採用もエンジニアやデザイナーで給料が高騰しており、人材確保は企業にとって非常に大きな問題ですが、ストックオプションは有効な打開策として期待されているからです。
メルカリは17%程度をストックオプションに準備
メルカリはストックオプションの枠として、17%用意していたことが話題になりました。それによって、優秀なエンジニアやデザイナーが初期に集まってきて、日本初のユニコーン企業となるような素晴らしいサービスを生み出すことができました。
このように評価制度・給与設計、ビジネスモデル、ファイナンスというのが一気通貫にできることが求められてきています。
では実際にストックオプションを導入するとどのようなメリットがあるのか、具体的にみていきましょう。
採用しやすくなる
ストックオプションは将来の報酬を約束するというかたちを取るため、人件費に割く余裕がない場合でも優秀な人材を確保できるというメリットがあります。
例えば少数精鋭のベンチャー企業の場合、必要なレベルの人材を雇うほどの資金的余裕がないというケースが少なくありません。
そういった場合でも、将来的なインセンティブとしてストックオプションを用意すればハイレベルな人材を採用することが可能になるのです。
人材流出を防ぐ
ストックオプションは成果報酬という側面がありますが、個人レベルの業績で決まるわけではありません。あくまで基準となるのは株価です。
株価は会社全体の業績を反映するため、おのずと従業員も会社全体の業績に関心を持つようになります。その結果、会社への忠誠心が高まり人材の流出が少なくなることが期待できます。
また、ストックオプションの権利行使までの期間(ロックアップ)を長めに設定しておくという方法もあります。
デメリット
ストックオプションを導入して従業員の士気を上げようとしても、株式が下落を続けているような上場企業の場合はインセンティブとして機能しないため注意が必要です。
また、市場全体で株価が下がっているような場合は、従業員がいくらがんばっても株価が上がらないということが少なくありません。
そういった場合は従業員のモチベーションが低くなってしまいます。ベンチャー企業などの場合、株式公開と同時にストックオプションを行使して会社を去ってしまう人が少なくないため注意が必要です。
また、報酬の多くがストックオプションである場合、株式公開そのものが最終目的になってしまう恐れもあります。
ストック・オプションで株価はどうなる?
ストックオプションは株価と権利行使価格の差額が報酬となる制度です。そのため、株価が上がらないことにはインセンティブとして機能しません。
実際、ストックオプションを導入することで株価がどうなるのかをみていきましょう。
上昇する条件・時とは
ストックオプションを導入すると従業員も株主と同じように株価上昇のキャピタルゲインを受け取ることができます。そのため、従業員のモチベーションが高まって業績向上を達成すれば、おのずと株価も上昇します。
また、ストックオプション導入が話題になれば優秀な人材が増える可能性が高まるため、市場からの評価が上がり株価も上昇することになります。ただし、相対的に評価が上がっても景気が悪ければ株価は上昇しません。
景況が悪くないことが条件となります。
下落・下がる条件・時とは
ストックオプションは一種の「新株予約権」です。権利を行使すると、それだけマーケットに流通している株が増えるため、結果として一株あたりの価値が希薄化することになります。
大量にストックオプションの権利が行使された場合は、理論的には株価が下がります。また、こういった事態を予測して、ストックオプション導入が発表された時点で株が売られ株価が下がることもあります。
ストック・オプションを退職後行使する時
ストックオプションの権利については、会社が制約を設けることができます。制約については書面で明確にしておかないとトラブルを招く可能性があるので注意が必要です。
特に退職後の行使については、労使双方でしっかりと取り決めをしておくことが大切です。
失効・消滅する条件、内容とは
「従業員でなくなった場合はストックオプションの権利が消滅する」という取り決めがあることが一般的です。その場合、退職したあとに権利を行使することはできないので注意が必要です。
もちろん、全ての場合で失効するというわけではないので、社則などでしっかり確認しておくことが大切です。
退職金になる場合
「株式報酬型」と呼ばれるストックオプションは、退職金として利用されるケースが多くあります。ストックオプションの権利行使価格を限りなく低く設定しておけば、権利行使をした時点での株価をそのまま報酬として受け取ることができるからです。
会計基準の適用指針
ストックオプションの会計基準の適用指針は、企業会計基準委員会(ASBJ)による「企業会計基準適用指針第11号」で「「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」として公表されています。
これは「企業会計基準第8号」の「ストック・オプション等に関する会計基準」と併せて確認する必要があり、企業におけるストックオプションの会計処理などの基準となるものです。
ストック・オプションの税制適格について
企業と従業員の双方にとってメリットの多いストックオプションですが、「税制適格ストックオプション」に該当するかどうかで従業員の支払う税金が大きく変わってくることに注意が必要です。
せっかくストックオプションを導入しても、「税制適格」でない場合にはトラブルが発生する恐れがあるため、しっかりと確認しておく必要があります。
税金はどうなるのか
「税制適格ストックオプション」であれば、所得税法上の「譲渡所得」として利益に対して一律約20%の税率が適用されます。しかし、「非税制適格」の場合は、権利行使(株式の購入)と売却の2回で税金がかかる恐れがあります。
また権利行使の時点で発生する利益は「給与所得」または「退職所得」として扱われ、最高税率が55%にもなってしまうため注意が必要です。
措置法29条の2について
ストックオプションが「税制適格」であるかどうかの基準は「租税特別措置法第29条の2」で定められています。「税制適格」となるには、「ストックオプションの取得者の要件」「ストックオプションの発行内容・行使の要件」などを満たす必要があります。