「新卒一括採用」という日本独自とも言えるスタイルは、日本人の国民性に合った親和性の高い雇用慣行だと言えます。一方で、世界標準である「通年採用」の導入を期待する声が高まりつつあることもまた事実です。「新卒一括採用」とは何なのか、そのメリット・デメリットにはどのようなものがあるのかを知り、広い視野を持って今後の就職活動を進めていきましょう。
「新卒一括採用」とは
そもそも「新卒一括採用」とは何なのでしょうか。「新卒一括採用」では、企業が新卒見込みの学生を対象として一定期間にだけ一括して求人を行います。その後も、採用試験を在学中に行って内定を出した上で、卒業後にすぐ勤務させるといった雇用戦略です。
「新規一括採用」は、毎年度決まった時期に行われることから「定期採用」とも呼ばれています。明治以来という長きにわたって培われてきたものだけに、企業サイドにも学生サイドにもそれぞれのメリットがあり、高い評価を得てきました。
しかし、その一方で日本全体のビジネスが欧米化しつつある今日では、時代の潮流に合わなくなってきたのではないかという声も上がりつつあります。
一括採用のメリット
早期に優秀な人材の確保が見込めること
企業が一括採用を行う最大のメリットは、「早期に優秀な人材の確保が見込めること」です。加えて、時期を限って採用を行うことで、採用や人材育成にかかる手間とコストが省けるので、企業サイドは効率的な経営を行うことができます。
大企業・有名企業に入れるチャンスを広げられる
さらに、全ての新入社員の入社時期が同じになるため、人事評価や待遇の変更など人事管理が簡略化できることもメリットの一つです。
一方、学生側のメリットとしては、「新卒カード(新卒の方が既卒よりも圧倒的優位にあること)」を手にすることで「大企業・有名企業に入れるチャンスを広げられる」ことが挙げられます。
経験やスキルを問われにくい
同時に、欧米のシステムとは違って選考時に「経験やスキルを問われにくい」ことも大きなメリットです。
一括採用のデメリット
一方で、一括採用のデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
優秀な人材を中途採用から得られにくい
企業サイドのデメリットは、「優秀な人材を中途採用から得られにくい」ことです。これは、あまりにも一括採用へ偏り過ぎているため、「転職市場が日本では発達しにくい」ことが要因とされます。
日本には「採用は学生の卒業後に行う」という協定があり、その「建前」を守るために編み出された「内定制度」や「内々定制度」がかねてより問題視されてきました。その結果、学生は以前よりも早い時期から就職活動を始めざるをえない現状にあります。
学生は内定や内々定を少しでも早く得ることに意識が集中し過ぎてしまい、学業の方が疎かになる傾向が見られるというのです。
中には、あまりに就職活動に集中し過ぎたため、卒業に必要な単位を落としてしまった学生も存在します。もちろん、これが本末転倒であることは言うまでもないでしょう。
海外での採用方法は
「通年採用」が一般的
欧米諸国を中心とした海外の就職事情は、どうなっているのでしょうか。海外には、日本のような「新卒一括採用」のシステムを採っている国は、ほとんど皆無であると言えます。
その代わりに、一年の決まった時期に求人を出すのではなく、ポストが空きしだい募集をかける「通年採用」が一般的です。
「実績」のある「即戦力」を求めるスタイル
これは、日本の企業が学生の持つポテンシャル(=潜在能力)を重要視して選考を行うのに対し、海外ではスキルやこれまでの職歴によって選考を行う、言わば「実績」のある「即戦力」を求めるスタイルを採っていることが関係しています。
仮に高い学歴がなくても、持ち前のスキルや実績をアピールすることで採用を勝ち取ることができる反面、本人がこれまでに行ってきた努力やプロセスなどは評価の対象としてはほとんど価値がないというシビアな側面もあります。
つまり、結果や実績こそが評価基準のすべてであり、それを持っていない人にとっては、非常に厳しいシステムだとも言えるのです。
「新卒一括採用」は止めるべきか
では、世界標準に合っていない、日本におけるビジネス形態の変化にもそぐわなくなってきている「新卒一括採用」は一刻も早く止めてしまうべきなのでしょうか。これは、はっきりと「イエス」「ノー」を答えるのが大変難しい問題です。
これまでも、現状を改めるべく、実にさまざまな提言がなされ動きも見られましたが、結果としてほとんど何も変わることはなかったからです。大企業であるほど、一括採用システムで得られるメリットの方が大きいため、あまり急速な変化を求めたがらないためともされます。
「終身雇用制度」や「年功序列」が事実上崩壊した日本
だからといって、このままでいいのかと言えば、けっしてそうではありません。「終身雇用制度」や「年功序列」が事実上崩壊してしまったと言える日本では、「若手のうちは給与が少なく不満がつのる」「面接受けばかりが求められ、スキルや経験が重視されにくい」「ロイヤルティ(=忠誠心)だけは一人前に求められる」といった学生にとっては「負の側面」ばかりが目立ってしまうからです。
一括採用の問題点は
新卒者と既卒者の間に「大きな壁」がある事
「新卒一括採用」の抱えるいちばんの問題点は、新卒者と既卒者の間に「大きな壁」がそびえていることです。つまり、就職活動の早期化により、同じ大卒者なのに採用機会に個人の努力だけではいかんともしがたい差が生じてしまっているのです。
これは、日本特有の現象であり、世界に類例は見られません。新卒と既卒の間にある「大きな壁」を解消し、いつでも再チャレンジのできる社会にするために、日本政府は「労働ビッグバン」を提唱したことがあります。
政府は、なかなか就職できない状態や経済的に困窮している状態からのやり直しが行えるように「新卒一括採用の抜本的な見直し」や「雇用機会の均等」を図ろうとしたのです。しかし、残念なことに国が率先して行おうとした構造改革をもってしても、新卒者が優先される現在の採用事情に大きな変化が見られることはありませんでした。
一括採用の廃止が求められる理由
また「新卒一括採用」には見逃せない大きな弊害もあります。それは、国内企業が優秀な人材を獲得する機会を逃してしまう可能性が少なくないことです。日本国内の企業は、春に卒業する日本の大学生を主なターゲットに採用活動を行っています。
外国人留学生など海外からの人材を採用するチャンスがなくなるから
そのため、外国人留学生など海外からの人材を採用するチャンスが失われてしまいかねません。事実、こうした学生の多くが「通年採用」を行っている日本の外資系企業や母国の企業に流れやすい傾向にあります。
これからの時代に海外企業と競争していくためには、いかに優秀な人材を多方面から確保するかが至上命題となるはずです。しかしながら、残念なことに国内にある大手企業の多くは、国内の新卒者だけにしか目が向いていません。
外国人留学生や帰国子女からも優秀な人材を採用しようというのなら、現在の採用システムに頼るだけでは圧倒的に不利です。もちろん、優秀な人材は既卒者の中にも多く埋もれています。したがって、一括採用の廃止も視野に入れた採用システムの改善が求められているのです。
「新卒一括採用」はどう生みだされたか、その歴史
「新卒一括採用」の手法を最初に始めたのは、1895年の三菱(当時の日本郵船)と三井銀行だと言われています。これは、事務職や経理職といったいわゆる「ホワイトカラー」と言われる従業員を採用することで、企業としての土台を揺らぎないものにし、安定した経営を目指そうとしたものです。
その後勃発した第一次世界大戦によって生じた人材の不足から、企業は学生が卒業するのを待たずに選抜と採用を行うようになり、これがしだいに日本全国に広まったものが一括採用の原型とされています。
日本の経済発展には必要だった
「新卒一括採用」は、こちらも日本ならではの「終身雇用制度」や「年功序列」とともに日本経済発展の一翼を担ってきました。
スキルや実務経験に乏しい新卒生であっても、一生涯面倒を見るという保証と引き換えに若手のうちは安い給料で働いてもらい、ゆっくりと時間をかけて自社に必要な人材を育て忠誠心を養ってきたのです。
今日に至るまでの経緯
その後、関東大震災や世界恐慌の影響で学生の就職難が大きな社会問題となりました。こうした問題を受け、1929年には「定期採用を在学中には行わない」とする協定が企業間で結ばれることになります。
協定の締結により採用戦争も一段落するかに見えましたが、結果はそうではありませんでした。優秀な人材といち早くコンタクトして囲い込んでしまいたいという思惑のもと、多くの企業が新しい採用手法に乗り換えました。
在学中に面接で採用者を確定しながらも、正式な採用は卒業後にしか行わないという「建前」を守ることにより、協定を破ることなく雇用者の確保を行うことができると考えたのです。そして、 このとき生まれた採用スタイルは「採用内定制度」として現在も根強く残ることになりました。