エンパワーメントという言葉をどこかで見かけたことがある人も多いでしょう。企業の人事においては、従業員の能力開発のために必要だとお考えの方も多いかもしれません。組織を活性化させるにはどうすればいいか。その悩みを解決するための手法が「エンパワーメント」です。ここではエンパワーメントとはなにか、具体的な活用方法を見ていきましょう。
エンパワーメントの意味
そもそも、エンパワーメントとはどういう意味なのでしょうか。テレビや新聞で見聞きしたことがあっても、職場で具体的に実践したことがない人も多いのではないかと思います。
以下ではエンパワーメントという言葉の意味をシーン別に解説します。様々な現場で使われているこのマネジメント術を、ご自身の職場でも利用してみてください。
そもそもエンパワーメントとは・使い方
エンパワーメントとは「組織を構成するメンバーひとりひとりが発展や改革に必要な力をつける」ことを意味します。ざっくばらんに言えば「マニュアルにとらわれず、現場の構成員が自主的・自律的に行動する」ということです。
潜在能力を開花させる能力開発の手法
集団に埋もれて力を発揮できなかった個人に対し、自主自立性を尊重し、自発的に行動することを促していきます。そのことによって潜在能力を開花させる能力開発の手法です。
心理学用語でなんというか
心理学用語でエンパワーメントとは「社会において差別や搾取を受けて弱い立場におかれ、自力でその問題解決をできなくなった人が、自ら問題に向き合い解決できる力を取り戻す方法」と定義されています。
臨床心理士はクライアントに対して、自己主張などの社会的スキルを獲得させ、権利を行使できるような環境条件を整備し、権利行使のために必要な手段や情報を提供するなどといった手法でサポートを行っています。
看護での使われ方
看護の現場においても患者のエンパワーメントは重要視されています。看護師は医師のサポートや患者の生活援助だけをしているわけではありません。
患者の精神的なサポート
看護師にとって、患者の精神面をサポートすることも主な仕事の一つです。
看護師が主導権を握った看護を行うのではなく、患者が持つ生きる力や健康促進への意欲などを看護師が湧き出させるよう援助する技術が、現代の看護師には求められていると言えるでしょう。
福祉での使われ方
福祉現場におけるエンパワーメントは、障害を持った方、あるいはその家族がより内発的な力を持ち、自身の生活を自らコントロールし自立することを意味します。
生活の支援全般を介護者が行うのではなく、被介護者の意志を尊重したケアマネジメントの重要性が認識されています。
ビジネスでの使われ方
ビジネスにおけるエンパワーメントとは「マニュアルでがんじがらめにせず、現場に権限を与え、従業員の自主的・自律的な行動を引き出すことで組織としてのパフォーマンスの最大化を図る」と捉えれば間違いないでしょう。
今後、社員の能力開発の一環として重要視しなければいけない概念と言えます。
マニュアルに頼りがちな現場においてはエンパワーメントを推進するための改革が必要です。特に企業の人事担当者はその考え方や活用方法を適切に把握しておくことが求められているのです。
エンパワーメントプログラムについて
エンパワーメントという用語の定義は理解できても、それをどのように組織で活用すればいいのか分からない方も多いでしょう。
ここでは、現代社会において重要視されているエンパワーメントの方法論であるエンパワーメントプログラムについて解説していきます。
プログラムの内容・意味
部下が自ら成長しさらに実力を発揮できるよう伴走
エンパワーメントプログラムでは、現場に権限を与えることはもちろんですが、現場に全てを任せっぱなしにせず、部下が自ら成長しさらに実力を発揮できるよう伴走する必要があります。
しかし、上司が部下に口出しをしてしまうとエンパワーメントは形骸化し、部下は「自分には仕事を任せてもらえない」とネガティブに感じてしまう悪循環に陥ってしまいます。
そうならないためになにをすればいいか。まずは目標設定に対する合意と共感を得ることから始めましょう。
自発的な目標達成に向けて動くこと
上司と部下で一つの目標を見据え、部下は自発的に目標達成に向けて動き、上司は部下が適切に思考・行動できているかをチェックします。
また、上司は部下に対し、企業方針や経営戦略などの方向性や委譲した権限の範囲を部下に示し、部下の行動が企業方針とずれないようにする必要もあります。
エンパワーメントを実践するために重要なことは、上司が部下を信頼することです。そのための関係性をつくるためにコミュニケーションをしっかりと取り、適度な距離を保って上司は部下をフォローすることがエンパワーメント成功の鍵なのです。
目的とその方法
エンパワーメントの最終目的は、組織にとっての成果をこれ以上ないほど限界まで高めることです。
上司から部下に権限を移譲することはあくまで手段であり、それが目的となって成果も出ていないのに満足することがあってはなりません。
エンパワーメント実施後も業績がこれまでと変わらない場合、上司は部下と密にコミュニケーションをとり、部下の自主性を重んじながらも軌道修正を図る必要があるでしょう。
口コミ・感想
エンパワーメントを実施してみた企業の口コミや感想を見ると、エンパワーメントにはメリットもあればデメリットもあるということが分かってきます。その一例を見てみましょう。
業務スピード・生産性向上
メリットとして挙げられることは「業務スピードや生産性が向上する」「顧客満足度の向上に繋がる」「モチベーションが向上する」「現場のマネージメント能力が身に付く」などが多くみられます。
現場の従業員が主体性を持って仕事に取り組むことにより、業務スピードが上がることはもとより、従業員自身の能力向上に大きな効果が見られることが分かります。
デメリット
デメリットとしては「組織の方向性や目的にずれが生じるリスクがある」「失敗による損失が発生するリスクがある」「エンパワーメントに向かない部下もいる」などが挙げられるでしょう。
いずれも部下と上司でコミュニケーションをしっかりとり、上司が部下のサポートを過干渉にならない程度に丁寧に行うことである程度は回避できると考えられます。
エンパワーメントアプローチの内容について
エンパワーメントの方法論は上記で説明したとおり、重要なことは権限を委譲する側とされた側がコミュニケーションをしっかりととることが重要です。
では、そのコミュニケーションはどのようにとればいいのでしょうか。ここではコミュニケーションを活性化させるためのエンパワーメントアプローチについて説明します。
医療での使われ方
いま、医療現場では病気を未然に防ぎ、健康を維持向上させることが重要視されています。そこで必要になるのが個人の健康に対するエンパワーメントです。
医療現場はWHOが定義する「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにする過程」であるヘルスプロモーションを推進し、個人の健康を支える環境作りをすることが求められています。
エンパワーメント三原則とは・内容について
エンパワーメントの三原則とは「当事者主体であること」「サポーター(上司など)と当事者の両者で行動を変えるために必要な事由を共有すること」「サポーターは当事者がゴールに向かうための環境整備をすること」この3点であると言えるでしょう。
現場の当事者に主体性を持たせること
現場の当事者に主体性を持たせることは、当事者が好き勝手にしていいことではなく、ましてやサポーターが当事者を放置することでもありません。
サポーターの適切なフォローがなければ成功しない
エンパワーメントは、上司に代表されるサポーターの適切なフォローがなければ成功しないと言えるでしょう。さまざまな現場や組織で活用されているエンパワーメントは、企業の人事における人材の能力開発に今後さらに活用されることは想像に難くありません。