メルカリの未来 ー メルカリCEO山田 進太郎 メルカリカンファレンスVol.2

1月20日(金)に行われた「メルカリカンファレンス」の最後を締めくくった、メルカリの未来と題されたメルカリCEO山田 進太郎氏と、モデレーターを務めたTechCrunch Japan 西村賢編集長のトークセッションの模様をご紹介します。

Vol.1のサービスを成長させるプロデューサーのトークセッションは、こちら。

メルカリカンファレンスVol.1「メルカリUS」カイゼンの最前線

最初はビジネスの知識がなくサービス運営をしていた

山田:

楽天でインターンをしていましたが、いろいろなサービスの企画を提出していたがなかなか結果がついてこなかったですね。その時にEC・CtoCのサービスは、ヤフーのYahooオークションにコテンパンにされていました。

企画が「なぜ通らないんだ」と思っていて、じきに自分でサービスを作り始めるようになりました。

最初に作り始めたのが「映画生活」というサービスです。今は「ぴあ」さんにサービスを売却して運営されています。サービスの一通り作る中で、ユーザーが思った通りに使ってくれなかったりするのがわかるようになってきた。ユーザーの気持ちになって、どう感じるのかを考えながらいろんなサービスを作ってみていて、映画生活はだんだん使われるサービスになってきました。

全然使われないサービスもあったし、作っている中でだんだん使われるようなものを作れるようになってきました。

映画生活は、もともと映画が好きで作り始めた。サービスを始めてそこそこは伸びても全然儲からなかったですね。ビジネスに関しての知識が欠落していたのだと思います。

この時、77年世代と言われて、グリーの田中社長やミクシィの笠原社長が同世代にいて、彼らはうまくやっていたのに自分はうまくできずに悔しい思いをしていました。これに関しては今でも思っているところはありますね。

2005年にアメリカから帰ってウノウを始めました。2.3年は上手くいかなかったけど、元々日本でガラケーがあってモバイルゲームが伸びると思っていました。

西村:何が要因で伸びるサービスやそのマーケットがわかるようになったのでしょうか?

山田:外部要因ではなくて、内部要因が大きいと思いますね。サービスを考える時にマーケットを考えたり、どこが甘かったかどうか、を反省するようになりましたね。

西村:時代の問題で最近はビジネスを考えてからサービスを運営する人が増えるようになったと思います。例えば、釣りが好きでサービスを始める時に、釣りをする人はこれくらい、マーケットはこれくらいみたいな。これに関してはどう思いますか?

起業に関してシリコンバレーのエコシステムは日本の何周もしている

山田:

日本のエコシステムによるところが大きいと思いますね。イーストベンチャーズ、西条さん、などの先輩経営者はいたものの、ノウハウがなかったんです。今はベンチャーキャピタルやエンジェルが増えてきて、エコシステムが出来るようになったのが大きいと思います。一世代前に、DeNAの川田さんとかがいて一度起業して成功した人が増えてきたから良い傾向になってきていますね。

ただ、シリコンバレーはそれを何周もしているのが大きな違いとしてあります。日本もよくなってきていると思うがシリコンバレーはもっと早いんです。

西村:マーケットやプロダクトを見極めるアンテナの趣向性はなんだと思いますか?向こうで生活をしてみて、向こうの空気を吸ってとかありましたか。

山田:

向こうに住んでいるかのようにサービスを色々使ってみると、そこまで大きく違わないとしても何かが見えてくることはあると思います。

ただ、本当に必要とされるものは、グーグルやFacebookとかみててもあまり変わらないと思っています。

西村:USのダウンロードとか、成功していると見えているけど、全く達成してない・後悔しているようなブログが。真意はなんでしょうか?

山田:日本もアメリカも成長しているように見えてるけど、去年はもっと上手くできたなって思うことがありました。もっと早くやれば良かったなとか。

アメリカ、日本はタッチしてなくて、自分がヨーロッパ管轄だったからイギリスを含めてそっちをみてたけど、アメリカもっと伸ばせるなとか思ったので。

西村:アメリカ市場や海外での伸び代に対して組織にどうシェアしているか?

山田:ヤフオクとイーベイをヒカクすると流通が10倍違う。だから、単純計算でも海外でもっとできると思っていて、アメリカに関しては伸びが日本に対して緩やかなのでもっと伸ばせるなと思っています。

西村:危機感とか他のプロダクトとの差別化はどのように考えていますか?

山田:ヤフオクなどのプロダクトもありましたが、今まで使わなかった層などにリーチしていて、メルカリなりのこうあるべきみたいな提案はユーザーにしていきたいのと、それに関してやっていく自信を持っていますね。

競合との差別化はコンセプトメイクと蓄積

西村:LINEモールなど競合が現れたときの差別化は、「蓄積」だという記事もあったが?

山田:LINEモールの出てきた時でしたが、差別化で答えた話で、蓄積だと思っていました。

コンセプトが今までのオークションサイトとは別だし、メルカリに関してはそのコンセプトの違いの部分を深掘りしていくというところですね。

西村:FacebookはABテストが多くて大きな施策を結構打ってくる印象がありますが、メルカリでも大きく変わることはありました?

山田:メルカリでも2列から3列になったことが大きな違いとしてあります。ABテストの結果明らかに数字ではよかったんです。ただ、レビューだけみると、散々でした。人は慣れによって判断している部分があってレビューが荒れていたりしていましたね。

日本だとそういう細かいことがあるけど、実際計測していた数字は非常に良くなりましただから変更したということです。

よくよく見るとFacebookやグーグルはどんどん変わっていってるし、グーグルはマテリアルデザインとかガイドライン作ってこれに従えとか言いますよね。こうあるべきみたいな。

メルカリは4周年なんですけど、4年前のスマートフォンに最適化されていたから2列だったんだけど、大きく変えようと思って3列になりました。その後も大リニューアルを考えていますしね。

そのあともトレンドにのった機能を使われなかったら捨てるなど大胆なことも必要だと思います。

僕の役割は気づきを与えること

西村:捨てることを決めるのは誰が意思決定しているのですか?

山田:5人中3人の取締役がプロダクトをみている。こういう方向性でとか、具体的な部分は濱田を含めて他の取締役が決めています。

西村:施策の共有を受けて、こうきたかみたいなことはありますか?

山田:僕が1番プロダクトを触っていて、気づきを与えるというのが役割だと思っていてトップダウンでは決めない。3ヶ月くらいずっと言い続けることもありますが、権限はかなり分散していると思っていますね。

10人✖️8チームくらいあって、ABは承認なしでプロジェクトオーナーが勝手に決めてやっている。

3%くらいのユーザーに導入して、よかったら全体公開とかは全然Facebookとかでもやっている。3%でも優位性が出るデータがあるので1.2日でチェックして、すぐ100%にしたりします。

機械学習やR&Dについて

西村:R&D組織についてアイデアはありますか?

山田:今機械学習などの人を採用し始めています。R&Dというより、各部門で取り入れていっている状態が理想だとは思っています。アップルでも研究機関がなくて、各部門のしたで研究していたりします。そのあとiPhoneやiPadのときなど、何か作りたいときに集めているんですよね。

そういうボトムアップからの吸い上げが僕もやりたいことではあります。

ただ、アップルは製造業なのでそういうことをしていますが、うちは組織が異なるのでR&D部門を作っても良いかなと思っています。

西村: facebookは機械学習の会社を買収したりしていますが、M&Aについてどう思いますか?

山田:日本だとプロダクト作れる人が少ないと思っています。のたうちまわってプロダクトを作る経験が大事だったりしますよね。Facebookなとでは機械学習の会社をM&Aをしているが、自分たちでまず経験しないとダメだなと思っています。

西村:ここからはTwitterからの質問を吸い上げていきたいと思います。

質問:サービスの撤退判断についてどのように考えているか

山田:世界で使われること、より多くの人に使われることを考えて作っています。サービスがユーザーに受け入れられないっていうことは独りよがりだと割り切るようにしています。それは出して一年くらいしたらある程度わかりますよね。無理して続けるよりも他のものを作ってバリューを出すほうが良いと思っています。

西村:もう1人山田 進太郎がいたらどういうことやっているとかありますか?

山田:今メルカリは先進国だけしか出していないです。日本だと資源買って捨てるというのがあると思います。本当に意味があるのは、新興国と繋ぐというのが大事だと思っています。そういう国の人たちがもっともっと豊かになって、バリューが出ると思っていますね。

僕の場合はもう1人いたらヨーロッパやるとか国で分けてCtoCをやりますね。

西村: Fintechがホットになってきていますが、メルカリはFintechサイドにいくのでしょうか?

山田:木村さん(元グノシーCEO)のPaymoとか出てきてやりたいなと思っていますが、全ては優先順位ですね。さっきも言いましたけど、欧米取れれば10倍だと思っているからやっています。ただ三年後とかにはやろうと思っていて準備を進めていますし、そういう人材も採用し始めています。

西村:日本のエンジニアは給料が安いとか言われています。エンジニアの評価やインセンティブ設計について思うことはありますか?

山田:グーグルとかFacebookはあれだけ投資しながら儲かっているのは、世界で儲かっているから。しかし、アメリカ国内に主眼を置いています。なぜならアメリカで成功すれば海外で成功するからです。

エンジニアの給料として考えたときに、良いプロダクトを作って、世界で使ってもらって、儲けていれば給料などの待遇は次第に大きくなりますよね。

どれだけ成功するかという基準で考えないといけなくて、給料を考えるときに原資はなんだと考えなければなりませんし、それが海外で成功することだと思います。

西村:日本初のユニコーン企業として、多くの人がメルカリに対する期待はあります。最後に一言お願いします。

山田:野球だと、大リーガーで野茂が上手くいって、その後イチローなどの大リーガーが増えてきたように、自分たちがそれになれればと思っています。

編集後記

mercari DAY 2017に出席して改めて日本初のユニコーン企業(未上場で評価額が1000億を超えている企業)としての勢いを感じさせられた。昨今のスタートアップバブルとは一線を画す成長スピードとそこに集まる優秀な技術者やクリエイター何が彼らをそこまで惹きつけるのかエンジニアである筆者は疑問があった。そして、今回参加してその答えが幾つか見えてきた。そしてこれからのスタートアップシーンではそこが課題であると考えさせられた。

優秀な技術者を惹きつけるポイントは下記の3つ。

● 3つのバリューと海外マーケットへの明確なメッセージ
● CEO・取締役陣がプロダクトを誰よりも考えて抜いているからこそ、プロデューサーとして誰にも負けないレベルの深度
● 絶妙な権限移譲と適切な評価

経営陣の明確なメッセージの重要性

山田進太郎氏が放つシンプルなメッセージとそれを支える取締役を含めた経営陣のバリューと海外マーケットの重要さの理解度は、イベントに参加した人全員が感じたのではないだろうか。このような明確なメッセージは社員の方向性を統一してブレがない経営ができる。

プロデューサー・エンジニアとして稀有な存在

また、プロデューサーとして細かい施策に関しても理解があることが非常に大切だ。もともと映画生活を開発したのは山田氏本人であり、取締役である濱田氏も元エンジニアで技術者に対して理解もあり、プロダクトのユーザーの気持ちに立つこともできる。山田氏の言葉にも「日本にはプロダクトを見られる人がいない」とあったが、これは「プロダクトの理解力」「ユーザーへの理解力」「インターネットを日常的に利用して次の波を見られるか」ということだ。

これまでウノウ社をZynga社に売却したり、多くのプロダクトや企業を売却してきている山田氏だからこその言葉であり、そのような人に人は確実に惹かれる。過去の一つの結果でなく、結果で示し続けて、ビジョンを示してくれる。こんな人は現在のスタートアップシーンではいない。

権限移譲と自由

メルカリのバリューは「Go bold」「All for One」「Be Professional」。Professionalだからこそ権限移譲をしてどんどん自由にやってもらう。もちろん責任も伴うが、自由にメルカリのためになるのはどうしたら良いのか考えて実行してもらう。その中でサービスも個人も成長していく。みんながプロであり、チームメルカリのために尽力していく。そして大胆に挑戦していく。

メルカリの開発チームも特徴的である程度の施策の共有はされているが、それぞれにチームに任されているとのこと。エンジニアも混ぜてボトムアップでABテストPDCAが高速で回っている。プロダクトを磨き上げて成功まで持っていくには確実に必要な改善。そのスピードを段違いに行うのは、すべてはバランスだ。権限移譲してもプロでなくてはいけない、プロだけど、大胆に挑戦できなくてはいけない、すべてが一貫している。だからこそブレがないように見える。これがリファラル採用で優秀な技術者を獲得できる一つの所以だと考えた。

 

筆者は幾つかのイベントに参加したことがあるが、一社のイベントでこれほどまでに社員がいきいきとして、メルカリにきて欲しい、メルカリの技術や評価、文化を知って欲しいと語っている企業をみたことがない。

一貫性のあるメッセージと上を目指す姿勢、そして愚直に実行し、海外マーケットへの挑戦、優秀な技術者を抱えて、日米合計6000万ダウンロードを超えてきた。これからのメルカリにさらに注目していきたい。

Writer:  makoto tanaka