退職代行業者の非弁のリスクとは?避けるための方法も

ブラック企業で労働条件が悪くて辞めたくても辞めさせてもらえない労働者などのために、退職代行業者が活躍しています。自分で申し出なくても業者が代わりに雇主に退職の意向を伝えてくれるので、退職願いを出しにくい労働者には退職代行が有難い救済策なのです。ただし退職代行業者は雇主と労働者の揉め事に介入するので、法律的な問題も生じるおそれがあると言われています。退職代行の抱えるリスクと注意点について紹介します。

退職代行の非弁のリスクって何?

退職代行には常に非弁のリスクがつきまといます。退職する際に穏便に手続きが進めば問題ありませんが、雇主が拒んだ場合など紛争に発展するおそれがある場合には、そのまま代行業者が退職代行を続けると非弁活動として法律に抵触する場合があります。

非弁活動とは

非弁活動とは、弁護士しか許されていない示談交渉など紛争解決の活動を弁護士資格の無い者が行うことです。弁護士資格の無い退職代行業者が非弁活動を行えば、弁護士法72条違反として罰則の対象になります。

弁護士法72条違反

罰則は2年以下の懲役、又は300万円以下の罰金という厳しいものです。労働者がただ単に退職したいというだけでなく、金銭的要求をしたい場合はトラブルになる可能性が高く、非弁のリスクが高くなるでしょう。

報酬をもらって会社と交渉ができるのは弁護士のみ

もちろん非弁活動が禁止されているとはいっても、報酬をもらわないのなら非弁のリスクはありません。しかし弁護士資格の無い業者が報酬を得て非弁活動を行えば、処罰される可能性があります。

弁護士は有償で紛争解決のための代理人となれる資格です。会社と退職の交渉を行う際には両者の主張が食い違う可能性が高く、紛争になりやすいと言えます。
紛争になった場合に代理行為を行って報酬をもらえるのは、一部の低額の争いを除き原則として弁護士だけです。

弁護士以外が金銭的な交渉をおこなうと非弁行為にあたる

退職の際には残業代や退職金など金銭的な問題がつきものです。退職代行の際にこうした金銭的要求を退職代行業者が行うと、非弁活動に当たる可能性があります。

140万円に満たない場合

金銭的な交渉を行う場合には、弁護士に頼んでおく方が無難です。ただし要求金額が140万円に満たない場合には、紛争性があっても認定司法書士に依頼することができます。

司法書士のほうが弁護士より報酬が安くて済みます。ただし交渉途中で額を上げることが可能だとわかった場合など請求額が140万円以上になると、結局弁護士に再度依頼し直さなければなりません。

退職代行の非弁リスクを避けるには

退職代行業者に依頼する際には、非弁活動とならないように注意する必要があります。退職代行業者に依頼することが適しているケースは、金銭的要求の意思がなく、雇主ともう関わりたくないので手続きだけ他人に任せたいといった場合です。

紛争性を帯びる退職代行の案件について非弁のリスクを避けるためには、弁護士が介在することが必要です。

顧問弁護士がいる退職代行業者を選ぶ

退職代行業者の会社に弁護士がついていれば、非弁のリスクを回避できて紛争になったときも対応してくれるはずです。もしそうなら弁護士のいない退職代行業者よりは安心して依頼できそうです。

ただし弁護士の名前が載っていてもその人間がどんな人物であるかが重要です。所属事務所が記載されているかどうかも重要なポイントです。

登録番号の確認

そして弁護士には登録番号が一人ひとりに付されているので、登録番号も確認しましょう。弁護士を日弁連のホームページで検索すると、正式に登録されている弁護士なら必ず名前が出てきます。

また懲戒処分を受けた弁護士の名前のリストが公開されているサイトもあるので、検索して載っているかどうか確認することも必要でしょう。

正式に登録された弁護士であっても、形式的に顧問弁護士が名前を貸しているだけで現場の業務に関わっていない場合には、「非弁提携」と言って処罰の対象となる可能性を否定できません。

退職代行に弁護士が主体的に関わってくれることが必要なのです。

弁護士事務所に依頼する

示談交渉のプロである弁護士は、当然退職代行もできるし、非弁リスクを避けられます。そこで紛争性を帯びる可能性が高い場合には、退職代行業者を利用しないで最初から弁護士に依頼するという方法もあります。

弁護士であれば、始めから法廷闘争を想定して交渉を準備することができます。退職を認めない雇主であれば、弁護士がその違法性を指摘して裁判で争う姿勢を示すことができます。

退職金や慰謝料に関しても妥当な請求金額を提案して、弁護士の名前で請求することが可能です。弁護士を選ぶ際には、債務整理から遺産相続まで何でも引き受ける弁護士よりも労働問題に精通・特化した弁護士を探すようにしましょう。

弁護士事務所の退職代行の特徴とは

弁護士事務所に依頼した場合、単なる退職代行業者に依頼するよりメリットがあります。必ず弁護士が対応するので、退職代行に非弁のリスクが生じず処罰の対象にならないため安心です。

弁護士は行政書士の活動もできるので、結局紛争にならなくても正式な書面を作成できます。雇主が弁護士との交渉に応じない場合には、通常訴訟の前に労働審判や小額訴訟など簡便な司法手続きで紛争処理を行ってくれます。

労働審判は3回の審理で結審させる迅速な紛争解決方法で、事実関係の確認はほぼ第1回だけで終わります。労働審判の趣旨は圧倒的劣位にある労働者を救済する点にあるので、よほど不合理な請求でない限り労働者に有利な展開が望めます。

退職代行業者より費用が割高の事務所も多い

ただし弁護士事務所に退職代行を依頼すると、裁判にならなくても報酬が割高です。たとえばほとんどの弁護士は、法律相談するだけでも高額の料金が必要になります。

無料相談もありますが、大抵は最初の1回だけです。紛争案件につき依頼を受ける際には事務手数料・着手金・成功報酬などの費用がかかります。

こうした報酬の金額設定は弁護士会の規定に沿って決められている場合が多く、決して法外な料金を請求されるわけではないのですが、退職代行業者に依頼するよりはどうしても高額になります。

ただし労働問題については着手金をもらわないと定めている弁護士事務所も多く、交渉が労働者の希望通りの結果になったときだけ成功報酬を払えばよいことも少なくありません。

労働者は雇主から得た慰謝料・退職金などから弁護士に支払う報酬を差し引けば良いことになります。

残業代の請求や慰謝料の交渉もおこなえる

弁護士に退職代行を依頼したら、退職代行業者にはできない残業代の請求や慰謝料の交渉もやってくれます。労働者がもらうべき残業代については、法令にしたがった報酬を支払っていない雇主が少なくないことも事実です。

労働局に申し出て残業代請求を行ってもらうこともできますが、雇主が応じるかどうかは任意であり、請求通り払ってもらえるとは限りません。

弁護士に依頼すれば、こうした残業代請求に加えて退職前に受けたパワハラなどにより生じた慰謝料の請求も行ってくれます。

慰謝料の請求額の算定は難しいので、専門家である弁護士に任せるのが一番です。

非弁リスクがない

退職代行業者に依頼すると常に非弁のリスクがありますが、弁護士ならその心配も不要です。弁護士に依頼すれば退職代行の手続きも行ってくれるだけでなく、紛争になれば裁判所も巻き込み労働者の側に立って争ってくれる強い味方になります。

弁護士なら雇主と意見の衝突があっても非弁活動にならないので、弁護士法で処罰されるリスクがありません。

退職代行は業者を見極めることが大切!

退職代行業者は、真面目に法令順守する業者からそうでない者まで多種多様です。退職代行業者に依頼する際には、まず特定商取引法に沿ってホームページなど業者の紹介欄に運営会社の住所・代表者指名・連絡先などがきちんと掲載されているか確認することが先決です。

そもそもホームページがない業者では素性を調べようがないので、選考から外したほうが良いでしょう。次に掲載された内容が事実に基づくかどうか、事務所が現実に存在するか調べることをおすすめします。

事務所の所在地がバーチャルオフィスであったり、住宅地の民家であったりしたら、実務が正常に行われているのか判然としません。会社であれば登記されているかどうかも確認できると良いでしょう。

そして何よりも非弁活動のリスクを考慮して慎重に業者を選別することが必要です。まず顧問弁護士がいるかどうか調査して、さらにその弁護士が紛争の際には前面に出てきて支援してくれるかどうかも確認しなければなりません。

顧問弁護士がいない業者

顧問弁護士がいない業者は、使者として労働者の意向を雇主に伝えるだけなので、雇主ともめそうだったり金銭要求にこだわりたかったりする場合などは避けた方が賢明です。

紛争性が無く退職の意向を示す書面を雇主に送付してもらいたいだけの場合にも、行政書士の資格がないと報酬はもらえないことになっているので業者の資格に注意する必要があります。